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 昭和の中ごろ、市内に誰もが知るS子さんという女性がいた。この人の職業は糞尿の回収、すなわち当時「肥汲み」と言われる職業である。当時は水洗便所もなくほとんどの家庭が昔ながらの汲みとり式の便所であり、バキュームカーもあるにはあったが市全体をカバーすることも困難な時代であった。また車が入ることも出来ない狭い路地裏にも困難なときもあった。そのため人力が必要だったのである。
 このS子さんの名は市長より有名で、市内にでは知らない人はいないくらいだった。ただしそのほとんどは名字を知らなかった。ただS子さんと呼ばれていたのである。仕事は大八車に桶をいくつか乗せ、ひしゃくで汲みだした糞尿を入れ家から家へと移動するのである。S子さんは前で大八車を引っ張り、後ろは無口な男性が押しているのである。ただただ黙って大八車を押すのである。S子さんとの関係は解らないが、どうも父親の様であった。
 道を行けば、中学生くらいはからかうこともあっただろう。事実「昨日S子を見た。」とか「お前はS子見たいだ。」とふざけあっていた。しかしこのS子さんからかわれても怒ったということを聞いたことがない。いつも一所懸命に車を引き、お客さんには笑顔で対応してした様である。各家庭から「S子さん、うち頼むわ。」といえば「あいよ。」と元気のいい返事。「Sちゃん!次はうちね。」と声をかければ「あいよ。ここ終わったら行くよ。」という会話。職業柄、人からは下げずまれていたのだが、市民には愛されていたようである。
 私が最後に見たのは、小学生の終わりか、中学生の初め頃だったと思うが、もう水洗便所が普及し始めた時である。自動車も多くなった市道で汗を拭きながら、いつものトレードマークの帽子をかぶり大八車を引いていた。その時の印象は、ずいぶん歳を取ったなというものであり、なぜか非想観を感じた。
 彼女は知能的に劣る人だったと人は言っていたが、自分のやるべき仕事をしっかり理解していた人だった。存命ならもうかなりの高齢だと思うが、市民栄誉賞なんてものがあれば彼女ほど受章に適した人はいないと思う。
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